■こたえたひと:動物研究室の和田学芸員(2004/10/21, 発言番号:873)
Re[1]: 大阪府のクマについての質問
キーワード:痕跡、目撃情報
従来、和泉山脈にはツキノワグマは生息しないとされています。そもそも大阪府にツキノワグマは生息しておらず、北摂山地では稀に出没例もあるのですが、和泉山脈での確実な出没記録は知りません。
大阪府周辺でツキノワグマが生息しているのは、京都府北部や兵庫県北部と、奈良県南部や和歌山県東南部があげられます。和歌山県の生息域で一番北にあたるのは、高野山周辺で、ここが和泉山脈にもっとも近いことになります。しかし、高野山から和泉山脈に来るには、紀ノ川を越えて、市街地を横切る必要があります。紀伊半島のツキノワグマの生息数が少ない事を考えると、野生のツキノワグマが和泉山脈までやってくる可能性は、低いものと考えます。
日本各地のクマ騒動に関する報道を見ていると、あいまいな状況証拠だけでクマの出没としているケースも多いようです。阪南市や和泉市など和泉山脈でのクマの出没情報についても、クマや足跡などの写真もなく客観性は高くありません。したがって、現時点で和泉山脈にツキノワグマが生息していると判断することはできないと考えています。
もし、クマの生息する山に出かける事があっても、過剰に恐れる必要はありません。人がクマを恐れる以上に、クマは人を恐れています。充分な距離で人の存在に気付きさえすれば、クマの方で人を避けてくれます。クマは人を襲いたいのではなく、むしろ追いつめられて攻撃してくるのです。クマに出会いたくなければ、鈴、声、ラジオなどで音を出して、人の存在をクマに知らせながら歩けば安心です。
個人的な話になりますが、学生時代、サークルの活動で、京都府北部の芦生にクマはぎの調査によく行っていました。芦生にはツキノワグマが多く生息していて、スギの皮をはぐのです。クマの調査に行ってるわけで、ぜひクマはぎだけでなく、クマの実物にも出会いたいと思っていたのですが、ついに一度も出会うことはありませんでした。むしろ出会いたいと思っても、なかなか出会えるものではないようです。