■こたえたひと:動物研究室の和田学芸員(2001/03/29, 発言番号:1094)
Re[1]: ヒトのタイプ標本についての質問
キーワード:記載、国際動物命名規約
ヒト(Homo sapiens)は、スウェーデンのウプサラの個体群(?)に対して、リンネによって1758年に記載されました。この時には、タイプ標本は指定されませんでした。それでは、現在ヒトのタイプ標本はどうなっているかというと、3つの考え方があります。
現代人を記載する際に、リンネは自分自身を引き合いに出しているそうです。そこで、
●1. リンネ自身がヒトのタイプ標本
しかしリンネは、化石人類と現代人との比較で自分を引き合いに出しただけで、多くの現代人の中で自分自身をタイプと指定したわけではないとの指摘があります。
そこで、1993年にロバート・バッカーが、E.D.コープの頭蓋骨をヒトのタイプ標本(ネオタイプ)として記載したとされます(二人ともアメリカの有名な古生物学者)。つまり、
●2. E.D.コープの頭蓋骨がヒトのタイプ標本
しかし、国際動物命名規約の75条に基づけば、バッカーのネオタイプの指定は無効であるとの指摘があります。というわけで、
●3. ヒトのタイプ標本は指定されてない
どの考え方が正しいかは、命名規約上の判断の問題なので、私にはわかりません。1の場合、リンネの骨格が残されていなければ、タイプ標本は現存していないことになります。2の場合、ヒトのタイプ標本(コープの頭蓋骨)がどこにあるのかはよくわかりませんでした。