自然史博物館によせられた質問(質問番号:509)

■質問したひと:京都市の チャワンタケ さん(2001/02/28, 発言番号:1093)
ヒトのタイプ標本についての質問
キーワード:学名、ホモサピエンス
 私は、趣味でキノコを研究しているのですが、(一通りの生物学の知識は持ってるつもりです)虫屋の友人と生物の分類について話していて、タイプ標本の話題になった時、「ヒトのタイプ標本はどこにあって、どんな物なのか?」と言うことになりました。植物や昆虫は乾燥標本、動物は剥製、液浸標本が一般的だと思いますが、ヒト(Homo sapiens) のタイプ標本とはどんな物なのでしょうか。ヒトはあまりにも自明だからタイプ標本は無くても良いんじゃないか? と言う私と、学名が有効である限りタイプ標本が存在するはず、と言う友人とで意見が分かれました。

■こたえたひと:動物研究室の和田学芸員(2001/03/29, 発言番号:1094)
Re[1]: ヒトのタイプ標本についての質問
キーワード:記載、国際動物命名規約
 ヒト(Homo sapiens)は、スウェーデンのウプサラの個体群(?)に対して、リンネによって1758年に記載されました。この時には、タイプ標本は指定されませんでした。それでは、現在ヒトのタイプ標本はどうなっているかというと、3つの考え方があります。
 現代人を記載する際に、リンネは自分自身を引き合いに出しているそうです。そこで、
●1. リンネ自身がヒトのタイプ標本
 しかしリンネは、化石人類と現代人との比較で自分を引き合いに出しただけで、多くの現代人の中で自分自身をタイプと指定したわけではないとの指摘があります。
 そこで、1993年にロバート・バッカーが、E.D.コープの頭蓋骨をヒトのタイプ標本(ネオタイプ)として記載したとされます(二人ともアメリカの有名な古生物学者)。つまり、
●2. E.D.コープの頭蓋骨がヒトのタイプ標本
 しかし、国際動物命名規約の75条に基づけば、バッカーのネオタイプの指定は無効であるとの指摘があります。というわけで、
●3. ヒトのタイプ標本は指定されてない

 どの考え方が正しいかは、命名規約上の判断の問題なので、私にはわかりません。1の場合、リンネの骨格が残されていなければ、タイプ標本は現存していないことになります。2の場合、ヒトのタイプ標本(コープの頭蓋骨)がどこにあるのかはよくわかりませんでした。

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ヒトのタイプ標本についての質問(2001/02/28, No:1093)
Re[1]: ヒトのタイプ標本についての質問(2001/03/29, No:1094)