■こたえたひと:初宿学芸員(2000/12/05, 発言番号:653)
Re[1]: 雪虫についての質問
キーワード:ワタムシ類、虫瘤、地方名
雪虫は植物につくアブラムシのなかまのひとつです。学術的には(タマ)ワタムシ類と呼ばれています。日本から60種ほどが知られているようですが、まだきちんと命名・記録されていないものも多いようです。
ワタムシ類は植物の汁を吸っていますが、特定の植物に限ってつくものがほとんどで、さらには春と秋で寄生する植物を転換することで知られています。このような特殊な生活から、多くの種類で植物の葉っぱなどに複雑な形をした虫コブ(ゴール)を形成するようになったと言われています。大阪付近でも雑木林などのヌルデ葉上でよく見かけるヌルデミミフシはワタムシ類の一種、ヌルデシロアブラムシのしわざです。
ワタムシ類は晩秋に秋の寄主植物から春の寄主植物へ移動をします。木枯らし吹く季節に綿のようなものをつけて舞っているので、雪のように見えるわけです。
晩秋にすべての広葉樹が葉を落とす北海道や本州の寒冷地では、市街地などの平地にも生息していることや実際の降雪量が多いこともあり、この雪虫が身近に感じられ、よく目立つように思います。札幌あたりではトドマツ(秋寄主)とヤチダモ(春寄主)を寄主植物とするトドノネオオワタムシがたくさん生息しており、冬の訪れを告げる風物詩としてよく知られています。井上靖の小説「しろばんば」はこの雪虫のことを呼ぶ地方名(場所は不明)だそうです。長野県では「ゆきおんば」とも呼ばれて、その地域にすむ人々の郷愁をさそうものとなっています。
関西あたりでは山地に行かないと見られないと思いますが、関西で見られる雪虫の正体がどの種類なのか、実はよく確かめたことがありません。先述のヌルデのもののほかケヤキにつく種類など、いくつか混じっているのではないかと想像しています。秋の寄主から春の寄主へ向けた移動のための飛翔であることは、トドノネオオワタムシなどの場合と同じだと思います。