自然史博物館 質問コーナー(発言の個別表示)

■発言したひと:植物研究室の佐久間学芸員(1998/10/06, 発言番号:84)
Re[1]: キノコの標本の作り方についての質問
キーワード:キノコ 標本
 キノコを野外にほっておくと、1.自分で溶ける、2.かびたり腐ったりする、3.虫に食われる、のどれかの運命をたどります。標本として保存するためにはこれらを避ければいいわけです。基本的にはサルノコシカケなどの硬質菌であろうと、柔らかいキノコだろうと変わりません。

 回避の方法としては、
A.しっかり乾かして、防虫剤・乾燥剤で管理する
 いわゆる干し椎茸の状態ですね。形も、大きさも色も変わり果てた姿となってしまいますので、生の時の記録が重要になります。もちろん生の時の味や臭いも失われます。詳しくはD's Basementの「番外標本の作り方−キノコその1−」 http://www.mus-nh.city.osaka.jp/sakuma/specimen.html をご覧下さい。博物館などでは大型の送風乾燥機を使いますが、家庭では温風ヒーターを使って乾燥機を作る方法、ふとん乾燥機を使う方法(膨らむ袋の中に入れてしまう)などがあります。これらの方法が不可能、あるいはめんどくさいという方は、キノコを縦に薄く割いて(マツタケご飯には行っているマツタケのイメージ)陰干しする、という方法もあります。これでも胞子を調べる事は可能ですし、傘から柄の部分まで、一そろい残りますので、なんとか役にたちます。小さなもの、肉薄のものなら、しっかりふたのできる入れ物でシリカゲルと一緒に入れておくという方法でも十分乾燥できます。コフキサルノコシカケなどの硬質菌類は材の部分が付いている標本が理想です。送風で乾かしてもどの程度乾いたか分かりにくいので、重さをはかっておくと良いでしょう。条件によりますが5%〜10%程度は減ると思います。この方法の場合防虫管理がポイントです。チャック付きポリ袋に防虫剤と一緒にしまっておきましょう。油断するとタバコシバンムシなどすぐ虫が湧きます。また、湿気にも気をつけないとすぐにかびます。私もこれらで大分犠牲にしました。

B.しっかりふたのできる容器で液浸にして保存
 どういう液に着けて保存するかは様々です。70%アルコールや6%程度のホルマリン、またはアルコール、ホルマリン、蒸留水を25:5:70で混合したもの(Corner's solutionと呼ばれます。色が比較的よく残ります)、FAA(ホルマリン、氷酢酸、蒸留水を10:5:85)などがよく使われます。かさばるので私はあまり作っていません。

C.凍結乾燥標本
 いわゆるフリーズドライです。-40〜50度で凍らせ、それを真空状態においてやることで形を保ったまま乾燥させる方法です。でも湿気も吸いますし、経年で色もあせます。機材が必要ですからあまり一般向きではありませんが、方法はあります。ものぐさ流としては、しっかり霜とり機能がある冷蔵庫の冷凍庫に1年単位で放置すること。家庭ではいやがられるでしょうね。乾かないうちに取り出してしまうと細胞内の水が溶けてしまい形もぐにゃぐにゃとなりダメになってしまいます。おすすめはしません。
 もう少しまじめな方法は一度凍らせて、そのままシリカゲルに埋めて数週間〜数カ月冷凍庫内におく。これは特に肉の薄いキノコでは比較的成功します。

 これらの他、採集日、採集場所、採集者などを書いたラベルが必要なのは植物その他の標本と同じです。いろいろ書きましたが、生の状態での観察に勝るものなしです。そこがキノコのつらいところなのですが、頑張って記録・スケッチして下さい。

 今関・本郷「原色日本新菌類図鑑I」(保育社)や井上・横山「きのこ・こけ・しだ」(小学館)他,キノコ図鑑の巻末や巻頭に標本の作り方は載っています。図書館や書店でご覧下さい。

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