自然史博物館 質問コーナー(発言の個別表示)

■発言したひと:佐久間学芸員(2000/05/26, 発言番号:392)
Re[1]: 腸内細菌についての質問
キーワード:腸内細菌
 人間を含め、全ての哺乳類の腸管の中には様々な微生物が生息しています。中でも牛の仲間のルーメン(反芻胃)にすむ微生物群は有名です。ここにすむ細菌群は絶対嫌気性で、ルーメン細菌と呼ばれ、植物質(セルロース)の消化を助けています。こうした宿主(ウシ)と微生物群の関係は「消化共生」と呼ばれています。このルーメン細菌は消化上必須の物ですから、伝搬についても興味をもたれ調べられています。出産直後から隔離して育てた場合、ルーメン細菌を持っておらず一定期間母ウシと生活する必要があることがわかりました。子ウシはしばしば母ウシのよだれ(と多分一緒に反芻している未消化物)をなめとりますが、この過程を経ているのではないかと言われています。
 こうしたルーメンは持っていなくても、他の多くの動物・鳥類・魚類などでも消化管の中にたくさんの共生菌を持っています。小腸以降の腸内にいるので「腸内細菌」と一般に言われ、ビフィズス菌や乳酸捍菌や大腸菌が含まれます(一口に大腸菌などといっても、これらは病原性などで細かく分けられます。腸内細菌の大腸菌は通常病原性はほとんどありません)。これらの細菌群の役割も、ウシの場合と同様の消化を補助する役割です。人が消化できない繊維質を大腸菌が嫌気発酵してできるのがメタン(おなら)です。食べ過ぎたり、外国へ行って急に油っこいものばかり食べたりすると下痢をしたりするのは、この腸内細菌の生態系バランスが崩れるためだと言います。

 さて本題の「赤ちゃんが腸内細菌を持っているか」ということですが、生まれたばかりの赤ちゃんが最初に出す便にはほとんど腸内細菌はいません。ところが、呼吸や寝具などから雑多な菌を取り入れ、24時間後の便にはそれらが反映されます。48時間ぐらいでは、「幼児型ビフィズス菌」が優勢になるようです(母乳か、人工乳かでも少し様子は違うらしい)。とにかく、赤ちゃんには最初から腸内細菌がいるのではなく、外部から取り込みます。
 その感染過程には2つの説があります。一つには産道での感染、そしてもう一つは乳房など母体の付着細菌に由来するのだという説(この場合は経口感染)です。どちらが正しいかは、はっきりしていません。母親から子へ、血縁があるもの同士のあいだで共生者や寄生者が伝わることを生態学の用語で「垂直感染」といいますが、もしかすると腸内細菌もそうして受け継がれているのかも知れません。

 【参考文献】「のぎへんのほんシリーズ 共生の科学」小沢正昭著、研成社、¥1200

 腸内細菌のPh嗜好は、多分中性でしょう。そのために十二指腸より上流にはいられないのだと思います。ただ、酸性条件で長期生存はできなくてもすぐに死ぬわけではありませんから、通過は十分できると思います(胃液は酸性ですが、腸液はアルカリ性で中和されます)。

このウィンドウを閉じる


ご意見は、monitor@omnh.jpまで。

【質問する方へのお願い】
●質問のメールを送る前に、必ず過去のやりとりをご確認ください。過去のやりとりを見れば答えがわかる質問には、お答えしません。またムカデやタバコシバンムシの駆除に関しては、過去のやりとり以上の情報は持っていませんので、ご了解ください。
●質問するときは、必ず名前を名乗ってください(ハンドルネームでも可)。署名がいっさいない場合はお答えしません。なお、このホームページに載せる際は、本人の同意が得られた場合のみ質問者の名前を公開しています。匿名やハンドルネームも可です。
●という訳ですので、質問するときには、やり取りのホームページ上での公開の可否と、公開の際の「大まかな住所あるいは所属」+「公開してもいい名前」を明記してもらえると助かります。
●より適切な解答をするために、質問内容だけでなく、できる限りなんのために知りたいのかを教えてください。
企業の業務上の質問はお断りしています。また、当館では現在のところ資料のコピーサービスは行なっていませんので、資料の送付はできません。こういった依頼はお断りしますので、ご了解ください。
●生物の名前を知りたい。という質問の場合、標本がなければどうしようもない場合が多々あります。画像だけではわからない場合もありますし、画像すらない場合はたいていあいまいな答えしかできません。できるかぎり標本を採取して、それを送ってくださるようお願いします。なお標本を送る場合は、あらかじめmonitor@omnh.jpまでその旨お知らせください。いきなり送りつけられても対応しかねますので、ご了解ください。